児童虐待防止にデータ分析で挑む、エビデンスベースで進める家庭の支援 | DataVehicle

事例紹介

児童虐待防止にデータ分析で挑む、エビデンスベースで進める家庭の支援

日本コンピューター株式会社

取締役本部長 中山 秀喜様

  • AaaS
  • 自治体向け業務支援システム

取締役本部長 中山 秀喜様

独立系IT企業の日本コンピューターは、政令指定都市の8割、東京都特別区の9割の保健所が利用中の保健所総合パッケージアプリケーション「WEL-MOTHER」のデータを活用し、2020年11月から虐待予防データ分析事業を開始しました。その裏側の仕組みを提供しているのがdataDiverです。なぜ虐待予防のデータ分析でdataDiverを導入することになったのか。その経緯と得られた成果について訊きました。

●「分析作業の効率性」と「分析結果の根拠の獲得」という2つの課題
● 公衆衛生と統計に関する専門知識でデータビークルを評価
● dataDiver導入で、透明性の高い結果説明と共通の判断材料に基づく意思決定を実現

データ分析で実現したいと考えた2つのレベルアップ

独立系IT企業の日本コンピューターは、1969年に福岡県北九州市で創業した会社です。同社が戦略的に重視しているのが社会問題の解決に資するシステムの開発で、創業以来「人類の進化に寄与する価値の創造」という経営目標を掲げ、ビジネスを推進してきました。中でも中山氏が責任者を務めるヘルスプロモーショングループは、自治体の保健所向けのシステム開発、導入、保守、運用をサポートする組織です。

保健所の業務は、人間を対象とする保健衛生から物を対象とする生活衛生に至るまで多岐にわたりますが、公衆衛生に関して必要な機能を網羅的にカバーするシステムを提供するのが「WEL-MOTHER」です。これは元々、1992年にPCで動く健康指導に役に立つシステムを作ろうと開発したもので、ユーザーは保健師、薬剤師、看護師といった専門職の人たちを想定しています。

2021年現在、日本の政令指定都市20団体の8割、特別区では9割の団体がWEL-MOTHERを利用中です。いわゆる「平成の大合併」で日本の市町村は合併が加速し、1990年代は3,000を超えていた自治体数は、2021年時点で1,741にまで減りました。「WEL-MOTHER」を全ての自治体に使ってもらうのは難しい。かといって、カバレージが低くては社会課題を解決することもできない。当初は小規模な自治体をサポートすることもありましたが、途中から政令指定都市や東京都特別区のような大都市を中心にWEL-MOTHERを提供する戦略にシフトし、今に至ります。

中山氏がデータビークルのdataDiverを導入しようと考えた理由は、「分析作業の効率化」と「正確性の向上」の2つを求めてのことでした。データビークル取締役の西内啓については、『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)などの著書を通じて関心を持っていたものの、中山氏が直接の接点を持ったのは2019年6月に実施した新製品発表会に遡ります。そもそも公衆衛生と統計学は切っても切れない関係です。西内がその両方の専門家であることも、「dataDiverに関心を持ったきっかけ」と中山氏は振り返りました。

予兆を掴むことで虐待を防止できないか?解決に向けて抱いた仮説

日本コンピューターの場合、分析ツールを使い、仮説検定を行うスキルを持つ人材はいたのですが、仮説を立てるところからやる分、その作業量は膨大なものになります。また、昨今では行政でもDX推進の文脈でAIの活用が奨励されていますが、中山氏を悩ませたのが「AIのブラックボックス問題」でした。インプットに使うデータの偏りを見落としていると、正しい結果を得られませんし、お客様への説明が歯切れの悪いものになってしまう。「分析結果の根拠を明確に示すことができないことにもどかしさを感じていました」と中山氏は話します。作業を効率化し、透明性の高い分析結果を得るため、日本コンピューターは2019年11月からdataDiverを使い始めました。

特に力を入れたのが、保健所の業務の中でも児童虐待予防に関する分析です。背景にはここ数年で事件が増えていることがあります。厚生労働省の発表によれば、2020年に児童相談所が対応した相談件数は20万5,029件と、過去最多を記録しました。また、児童虐待と言うと、報道ベースでは親の責任問題が取り上げられがちです。子どもの虐待死を避けることを優先するべきですが、見方を変えると親も被害者である場合もあります。保健師の立場からすると、子どもを助けられなかった。親も助けられなかったと、二重に自責の念に駆られる。報道が出れば、保健師への非難が集まる場合もあります。

だとすると、虐待そのものが起きなければいい。その予兆を掴めば、家庭へのサポートも変わるはずです。「事務の効率化だけで満足するのではなく、もっと私たちの価値を提供したい。統計の力で虐待予防に貢献できる」。この中山氏の強い思いが、新しい仕組みの基本構想を形作りました。

dataDiverを2つの分析用途で活用

日本コンピューターは大きく2つの用途でdataDiverを利用しています。1つはWEL-MOTHERを導入している保健所での分析、もう1つが外販用の児童虐待予防システムの裏側の仕組みへの適用です。データビークルは製品の提供だけにとどまらず、中山氏のチームに入り、公衆衛生と統計に関するナレッジの提供と分析結果の監修も担当しました。

保健所での分析では、WEL-MOTHERに蓄積されたデータ、住民基本台帳のデータ、保健師の家庭訪問記録等を使っています。問題はこれらのデータが非常にセンシティブであることです。dataDiverはクラウドで提供している製品ですが、中山氏がやりたい分析ではクラウドにこれらのデータを載せるわけにはいかず、オンプレミス環境での分析が不可欠でした。そこで、データビークルは日本コンピューター社内のサーバーに分析環境を構築し、匿名加工して預かったデータの分析を行い、統計的に有意な結果が得られるかを検証しました。

もう1つの仕組み化では、WEL-MOTHERの母子保健データと児童相談所、家庭児童相談室のデータを組合せ、より早く虐待の兆候を察知し、関係者間で共有できるようにしました。具体的には、部分的に切り出したdataDiverのエンジン機能を利用し、お客様先で作成した予測モデルを更新し、返ってきた結果を日本コンピューターのシステムにフィードバックする仕組みを構築しています(図1)。
図1:児童虐待予防システムの構成

出典:日本コンピューター

2007年4月、厚生労働省は次世代育成事業として生後4か月までの全戸訪問事業を創設しました。その目的は、家庭訪問で様々な不安や悩みを聞き、子育て支援に関する情報提供等を行うとともに、親子の心身の状況や養育環境等の把握や助言を行い、支援が必要な家庭に対しては適切なサービス提供につなげることにあります。

保健師の担当業務はとても多いため、現場では地域の訪問指導員と手分けをして全数把握を行う運用にしていることが多いです。今までは、保健師が行くべき家庭と、訪問指導員が担当する家庭の切り分けを勘と経験を基に行っていましたが、中山氏はデータ分析でその切り口を明確にしようと考えたのです。dataDiverの導入で、今までは明文化していなかった全戸訪問時の役割分担をデータに基づいてできるように変わりました。

自信を持って結果を説明でき、共通の判断材料で意思決定が可能に

dataDiverの製品仕様では、分析結果を自然言語で表示しています。この特徴があるがゆえに、現場で各家庭と接する様々な人たちが、虐待につながる様々な兆候を日本語で理解し、共有できるわけです。

分析から得られたインサイトについて、中山氏は「保健師さんたちがそれまで経験と勘で知っていた『やっぱりそうだよね』というものが中心です」と語ります。とはいえ、エビデンスが得られた結果、保健師さんたちにとって、支援の方向性が正しいことが裏付けられたことは大きな成果と言えるでしょう。dataDiver導入の目的に据えた分析の効率化と正確性の向上が実現し、透明性の高い説明ができるようになりました。また、保健師は皆が熟練の人たちとは限らず、現場での関係者間の共通理解と情報共有を促すことも重要です。この点について、「若い人たちが、熟練の保健師と同じ判断ができる教育的要素を養う材料を得られたのは大きな成果でした」と中山氏は評価しました。

日本コンピューターはこの成果を活かし、エビデンスの力で児童虐待予防を洗練させることに取り組む計画です。注目しているのが法制度の変化です。2016年に児童福祉法が改正され、東京では区単位で児童相談所を設置できるように変わりました。すでに世田谷、江戸川、荒川、港の4区が運用を始めていますが、これから向こう7年間で22の特別区が児童相談所を設置する計画が進行中です。その整備が進めば、虐待予防に関する取り組みもきめ細かくできるようになるでしょう。児童相談所はどこも忙しくしているところばかり。「本質的な社会課題解決の一助になる仕組みを提供するべく、WEL-MOTHERを利用中の保健所のため、虐待予防に専念する計画です」と、中山氏は将来展望を描いています。

※この事例に記述した数字・事実はすべて、事例取材当時に発表されていた事実に基づきます。

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